LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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ロイヤル・バレエ:ミックス・ビル

2009.11.06
昨年末くらいから、エンタメに行く時間的余裕がなくなってきて、でも特にロイヤル・バレエに限れば、何度も観たくなるような演目・ダンサーが少なくなってしまったという気分的なこともあります。そのような印象はまだまだ引きずっていまして、今週、やっと今シーズン初めてロイヤル・バレエを観てきました。
 世界初演を含むトリプル・ビルの初日。久しぶりに見るロイヤルのダンサーたちは、勢いのある若いダンサーの化けっぷりに眼を見張る一方で、もともと余り好きでなかったダンサーをますます否定的な目で見てしまう、そんな個人的にはとても面白いプログラムでした。

 プログラムの最初は、ジョージ・バランシーンの「AGON」。当初出演予定だったプリンシパルのセナイダ・ヤノウスキーが産休で降板。その代わりを、したから2番目のランクにもかかわらず、どんどん大きな役に抜擢されているメリッサ・ハミルトンが見事に果たしました。

AGON
Melissa Hamilton
Carlos Acosta
Mara Galeazzi
Johan Kobborg


 このプロットレスの演目の主要キャストは4人。初日は、ハミルトンを除く三人がプリンシパルということで、いい意味でも悪い意味でも、プリンシパルといえども「松竹梅」があることを改めて感じました。
 悪いほうから書くと、ガレアッツィ。プリンシパルになったころから比べれば、技術は安定してきたことはわかります。が、彼女の踊るバランシーンの切れなさといったら。ガレアッツィが率いるセカンド・パ・ド・トロワ(他に男性二人)は、三人とも「バランシーンを踊ってはいけない人が踊ってしまっている」という感じで、あれほどかったるいバランシーンを観たのは本当に久しぶりでした。
 そのセカンドとは対照的にいい踊りと感じたのは、ファースト・パ・ド・トロワをヨハン・コボーと踊った日本出身の二人の女性ダンサー。一人は、崔由姫さん、もう一人は今シーズンからファースト・ソロイストに昇格した小林ひかるさん。ヴェテランのコボーの確実なサポートがあったからこそだとは思いますが、切れがあり、かつ優美な動きでした。
 彼女たちの踊りを観ていて、気になったら頭から離れなくなってしまったことがひとつあります。AGONを踊る女性ダンサー衣装は黒一色で飾りのないとてもシンプルなもの。背中はぱっくり開いています。崔さんの背中を見てふと、「あれ、背中が幼い」。小林さんの背中も、ガレアッツィの背中も多少の差はあれ、「小林ひかるの背中」、「マーラ・ガレアッツィの背中」であることを主張しているのに、崔さんの背中だけはなんだか無色透明でした。決して批判しているのではなく、背中にもいろいろあるんだな、と。
 ハミルトンは、その驚異的な体の柔軟性を、ロイヤル・バレエの常任振付家、ウェイン・マックグレガーが見出したことで、昨年突如表舞台に舞い降りて以来スター街道まっしぐらです。今回も、アコスタと堂々と張り合う踊りからは、カンパニーが育て方を間違わなければ、将来のロイヤル・バレエを代表するダンサーになるのではないかと感じました。
 で、初日のAGONをバランシーンの振り付けとして踊れていたのは、ヴェテランのカルロス・アコスタとコボーだと思います。幕が上がって二人の顔を見たときには、「アコスタ、なんてふけっぷり」、と驚きましたが、踊りのセンスという点では若いダンサーたちを寄せ付けるものではありませんでした。それとアコスタの場合、ロイヤルで踊るときは世代がまったく違うダンサーと踊ることはほぼないので、今回、15歳以上したのハミルトンと踊っているときの彼の表情は、なんだかとても慈愛に満ちていました。
 カーテン・コールでは、バランシーンが上演されるたびに指導しに来るパトリシア・ニァリィ女史が、今回もまた一番華やかでした。

 2番目は、グレン・テトレイが振付けた、SPHINX。カンパニー初演の演目です。

SPHINX:Marianela Nuñez
OEDIPUS:Rupert Pennefather
ANUBIS:Edward Watson


 今回のブログラムで唯一のナラティヴ・バレエだったようですが、筋書き自体はとても陳腐なものでした。アヌビスの忠告にもかかわらず、エディプスにほれてしまったスフィンクス、という話です。メイクはヤンキーを崩して古代エジプトテイストを混ぜてみましたという感じですし、唯一の舞台セットは日本のバブルのころのディスコのお立ち台という印象で、作品自体には何の感慨もありません。振り付けも、体力勝負という感じで見応えはあるものの、体力と技術が伴わないダンサーが踊ったら眼も当てられない舞台にもなりかねないように思いました。


(ヌニェスとペネファザー)

 で、そんな作品を引き締めたのは、プリンシパル三人の存在感。とりわけ、エディプスを踊ったペネファザーの成長振りに、彼が踊るアルブレヒトを観てみたいなと。

 最後の演目は、マックグレガーがカンパニーに振付けた新作の「LIMEN」。世界初演でした。

Music:Kaija Saariaho
Choreography:Wayne McGregor
Set design:Tatsuo Miyajima
Costume designs:Moritz Junge
Lighting design:Lucy Carter

Performers
Edward Watson
Leanne Benjamin
Yuhui Choe
Mara Galeazzi
Melissa Hamilton
Sarah Lamb
Marianela Nuñez
Paul Kay
Brian Maloney
Steven McRae
Eric Underwood
Leticia Stock
Akane Takada
Ludovic Ondiviela
Trystan Dyer


 常任振付家になってロイヤル・バレエに振付けた新作としては三作目になる「LIMEN」創作の発端は、作品に使われたKaija Saariaho作曲の「Notes on Light」だったようです。ちなみに初日は、この曲がイギリスで初めて演奏された日でもあったそうです。

 マックグレガーの作品を言葉で表すことは意味の無いことだと思いますが、印象に残ったことを幾つか。
 まず、カーテンが上がり、薄いスクリーンの向こう側で男女ペアのダンサーが静かに踊っている。スクリーンには、Tatsuo Miyajimaによるデジタル処理された数字がランダムに投影されている。
 で、このランダムに浮かんでは消え、消えては浮かんでくるデジタル数字が何の脈絡もなく、X染色体とY染色体にも見えるなと思いついた瞬間、それが頭から離れなくなってしまいました。で、スクリーンが上がると、舞台の床に最初に投影された照明効果は、真四角のラヴェンダー・パープルの床。これがまた、「シャーレで細菌を培養している」というイメイジに結びついてしまって、マックグレガーらしいなんて研究所っぽい作品というのが最初の印象でした。
 作品を通しての衝撃度という点では、マックグレガーを常任振付家にした「クローマ」ほどではないように感じます。しかしながら、音楽、振り付け、証明等がもたらす作品の統一感という点では、新作にもかかわらずとても円熟味を感じました。
 今シーズンから正式団員として踊っている高田茜さんが抜擢されているなど、キャスティングの点でも興味深い作品ですが、とりわけ印象深く感じたダンサーは三人。
 まず、キャラクター・ダンサーを除けば、現役ダンサーとして最高齢であろうリアン・ベンジャミンが自分の子供ほどの若いダンサーに混じって踊っている。彼女は、2003年の「クォリア」でもワトソンと踊っている(http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-234.html)ので、本人にとっては別段、特別なことではないのかもしれません。が、ベンジャミンのとても小さな体から醸し出されるダンサーとしての誇りに感銘を受けました。
 LIMENのメイン・パ・ド・ドゥは、サラ・ラムエリック・アンダーウッドによって踊られました。ムーブメントの美しさは筆舌に尽くしがたいほど。そして、思い込みが過ぎるのかもしれませんが、同じくらい深く感銘を受けたのが、二人がアメリカ人であり、一人は白人女性、一人は黒人男性であること。


(ラムとアンダーウッド)

 僕はアメリカのバレエ・カンパニーの実情を知りませんが、これほど肌の色が違うバレエ・ダンサーが、振り付けのメインとなるパ・ド・ドゥを踊る機会は、アメリカでどれほどあるのか?とてもいい意味で、あまりにもロイヤル・バレエらしいと思わずにはいられなかった、美しい一瞬でした。

About This Blog

2009.11.05
1999年のクリスマス・イヴにロンドンに来て以来、家族、友人、知人に無理やり送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンをまとめる目的で始めたブログ。
 同じ島国のイギリスと日本、似ていると感じることもあれば、今でも驚かされることも結構ある。ということで、これからも不定期に面白いと思ったこと、興味を惹かれたことなどをアップしていければ、と。

 最近、メイル経由で質問を戴くことが増えていて、お越しくださる人には感謝します。ただ、例えば、「ロンドンに行こうかと思っているんですが、どうでしょうか?」のようなまる投げの質問の返答は、「行きたいかどうか判らないなら、止めたほうがいいのでは」、です。質問されるのは構いませんが、下調べと覚悟をもってしてください。

[お知らせ:11月5日]
 今夜のBBCの報道によると、ロイヤル・メイルのストライキは、とりあえず新年まで延期になったそうです。やっと、クリスマス・カードを買いにいける。

 ブログエントリのねたの一部として撮った写真を先にアップしました。

http://www.flickr.com/photos/89578620@N00/sets/72157622566527989/


 先週土曜日のガーディアン紙のトラヴェル・セクションで、イギリス人が行きたい都市の一位にエジンバラ、2位にヨークが選ばれていました。自分が行ったからだけではないですが、お勧めです。

http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-958.html


http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-970.html

 先月観てきた、AnishKapoor展(http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1099.html)の中庭の展示物の写真をフリッカーにアップしました。

http://www.flickr.com/photos/89578620@N00/sets/72157622481456811/



 8月のロンドン観光の写真をフリッカーにアップしました。

http://www.flickr.com/photos/89578620@N00/sets/72157621928764961/
http://www.flickr.com/photos/89578620@N00/sets/72157621928772571/

メディアの影に蠢く権力、金、うそ、そしてごみ

2009.10.27
10月13日のThe Guardianの一面に小さく、以下の記事が掲載されていました。

Guardian gagged from reporting parliament
http://www.guardian.co.uk/media/2009/oct/12/guardian-gagged-from-reporting-parliament

 タイトルが眼に飛び込んできたとき、「gag」の意味をすぐに理解できなかったので、まったく逆のことを考えてしまいました。しかしながら、記事を読むとガーディアン紙が下院で話される内容を報道できないように法的手段が行使された、というものです。記事自体、奥歯に何かが詰まったような一度読んだ限りでは何がどうなっているのかまったく判りませんでした。が、いち新聞が国会報道を差し止められるとは何事?という疑問は持ちました。

 翌日、14日の一面トップは。

Trafigura drops bid to gag Guardian over MP's question

http://www.guardian.co.uk/media/2009/oct/13/trafigura-drops-gag-guardian-oil

Trafigura: A few tweets and freedom of speech is restored

http://www.guardian.co.uk/media/2009/oct/13/trafigura-tweets-freedowm-of-speech

 新聞本紙では、会社名の替わりに「Oil firm」となっていました。このTrafiguraがコート・ジヴォワールの海岸で起こした人災をガーディアンがしつこく報道していて、その事故について下院で話されるときにガーディアンにはいてほしくなかったので、メディア専門の法律事務所を使って取材させないようとした、というのが僕の理解です。正直、ガーディアンやメディアにとっては勝利でも、後味のすっきりしない記事です。
 記事を読んで21世紀らしい、言い換えると、今後のメディアの行方を左右するであろう事実が書かれています。このガーディアン締め出しを図った権力を追いやった大きな力のひとつが、トゥイッター:Twitterであったこと。僕自身は、いちいち呟きをネットに書き込むほどの暇なんてない、というスタンスなので使いませんが、インターネット上の誰ともわからない個々人の力が集まったことにより、権力を追いやった、メディアの自由を死守したというのは、「今」を象徴している気がします。

 このことで殊勝になるようなガーディアンではないことを証明したのが、15日の一面トップ。

Tabloids lured by celebrity plastic surgery hoax

http://www.guardian.co.uk/media/2009/oct/15/starsuckers-celebrity-cosmetic-surgery-hoax

 イギリスのタブロイド紙が如何に記事の信憑性に気を配っていないかが、あるドキュメンタリー映画の引っ掛けによって暴露されたというものです。記事によっては、まんまと引っかかったタブロイドのみならず、ニュー・ヨーク・ポストやインドの新聞が二次使用するというおまけつき。メディアの誇り、というのはタブロイドにはないのかもしれないです。

 10月12日より無料になったロンドンの夕刊紙、イヴニング・スタンダードhttp://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1101.html)。記事の変化(悪い意味で)、スター・コラムニストの流出等々、無料化によるさまざまな変化が見て取れますが、僕が感じる最も悪い変化は、読み終わった本紙がところかまわず捨てられて、ロンドンの醜悪化を加速させていること。
 たしか、EU加盟国の首都の中で、ロンドンは最もごみにあふれた都市。有料新聞のときは、わずか50ペンスといえども地下鉄車内に捨てられたスタンダード紙を見ることはめったになかったです。それが無料になったことにより、人々のモラルをさらに低下させることに手をかしてしまった。メディアのありようが、その国の現状を、そして人々のありようを写している、そのような印象が強くなっているこのごろです。

 真実、ってなんだろうと思わず考えてしまう。

日本の漫画を大英博物館が展示

2009.10.24
朝日新聞のウェブで紹介されていました。

日本漫画、大英博物館に大抜擢 「宗像教授」展開催へ

http://www.asahi.com/culture/update/1024/TKY200910240185.html
(朝日新聞には、このリンクは会期終了まではアクティヴにしておいて欲しいな)

 僕はこの漫画も著者の方もまったく知りませんが、ようやくイギリスでも漫画が認知されてきたように思えてうれしい。

Manga: Professor Munakata’s British Museum adventure
http://www.britishmuseum.org/whats_on/future_exhibitions/manga.aspx

 他にワークショップもあるようです。

An introduction to the works of manga master Hoshino Yukinobu

http://www.britishmuseum.org/whats_on/events_calendar/november/manga_master_hoshino_yukinobu.aspx

 11月末には、バービカンで「ポニョ」も上映されるし、楽しくなりそう。

17世紀スペインの宗教絵画・彫刻展

2009.10.22
10月21日から、ロンドンのナショナル・ギャラリー(http://www.nationalgallery.org.uk/index.php)で始まった17世紀スペインの宗教絵画・彫刻を集めた展覧会を、各新聞のクリティクが大絶賛している。

The Sacred Made Real at the National Gallery

http://www.telegraph.co.uk/culture/art/6349081/The-Sacred-Made-Real-at-the-National-Gallery.html

The sacred comes to life: Spanish art at the National Gallery

http://www.guardian.co.uk/artanddesign/gallery/2009/jun/09/spanish-art-national-gallery-exhibition?picture=348593276



 イヴニング・スタンダード紙に掲載されたキュレイターのインタヴューによると、宗教関係者や団体への説得はいつ果てるともなく続いたとのこと。そうだろうな、彼らにとってこれらは見世物ではないだろうから。


(一歩間違えれば、人体標本と見て取れる気もするけど)

 美術館等の閉じられた空間で、宗教一辺倒の絵画や彫刻に囲まれるというのは趣味ではない。が、「傾倒」という人の心が持つ計り知れない力が生み出したものが放出する磁場がどんなものか、という点ではとても興味を惹かれる。自分がこの世界で一番強いと感じられる朝があったら観に行こう。

 単に偶然だけど、タイトルを忘れていたモダン・アートを先週末のガーディアンが写真を掲載していて、ようやく写真をネットで集めることができた。



 どうやらいろいろなヴァージョンがあるようだけど、僕がこれを初めて観たのは、2000年、ロイヤル・アカデミー夏恒例の「サマー・エキシビション」でだった。そのときのタイトルは、「The Ninth Hour, in Apocalypse(by Maurizio Cattelan)」。



 ロンドンに着てから、英語の試験や希望していたコース入学へのインタヴューで疲労困憊して3週間くらい日本に戻って気力・体力を回復してロンドンに戻ってきてからすぐに観たように記憶している。恐らくこれが、モダン・アートとの最初の邂逅だったような気がする。


(どうやらオリジナル・タイトルは「La Nona Ora」のよう)

 17世紀と20世紀の違いはなんだろう。

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