LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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PDジェイムズ、BBCを叱りつける

2010.01.05
2010年、明けましておめでとうございます。今年もお付き合いただければ幸いです。初端ですから、多くのイギリス人が初笑いを楽しんだであろう話題を。

 アガサ・クリスティの名前は知っていても、PDジェイムズとなると、イギリス推理小説界にずぶずぶと足を踏み込んでいる方しかご存じないかもしれません。イギリスの文学界では大御所、というかもはや仙人と表現してもいいかもしれないです。クリスティのように作品が大々的に映画化されるということはない方ですが、人気は絶大、かつイギリス上院の保守党名誉議員(って言っていいのかな?)で、オフィシャルな肩書きは、Baroness James of Holland Parkです。


(PD ジェイムズ)

 今年の8月に90歳の誕生日を迎えるジェイムズは、もしかしたらもう作品は発表しないかもとも言われています。彼女の作家デビューは遅くて確か1962年。作品数も、毎年クリスマスに新作を発表していたクリスティや、もう一人の仙人、ルース・レンデルに比べると多くはないです。彼女の作品のメインの探偵は、アダム・ダルグリッシュ。警察官であり詩人という設定。ポワロと違って、作品が出るたびにダルグリッシュも歳をとり階級が上がっていくというのは自分が生きている時代に重ね合わせることが出来ていいのですが、PDJの作品は、特に中期以降になるととても長く、かつ殺人の動機が哲学的過ぎて「こんな理由で人を殺すか?」と思うことがあったので、「死の味」以降は読んでいません。コーンウォールのことを書いていたときにダルグリッシュを思い浮かべたのは、初期の「黒い塔」のことを思い出したからです。で、これを書くにあたって彼女の作品リストをアマゾンで調べたら「灯台」(未読)でコーンウォールを舞台にしていました。縁を感じます。余談になりますが、PDJに興味を惹かれたら、まずは初期の作品から読むのをお勧めします。それと、他にはパトリシア・モイーズクリスティアナ・ブランドも古きよきイギリスって感じの描写があっていいと思います。

 12月31日に、BBCのRadio4の朝の番組に特別編集者として招待されたPDJは、BBCのトップ、マーク・トンプソン氏に公開インタヴューを申し込み、待ち受けている運命を知る術のなかったトンプソン氏は受け入れました。


(マーク・トンプソン)

 PDJがトンプソン氏に質した事柄のひとつは、BBC上層部の高給と外から見ると何をする仕事なのかわからない人が多くいることです。PDJが例として取り上げたのは、以下のリンクにある4つのポジション。僕も、彼らの仕事の区別がわかりません。

The senior BBC executives identified by PD James
http://www.telegraph.co.uk/news/6916936/The-senior-BBC-executives-identified-by-PD-James.html

 PDJは続けます。

I mean, it really is quite extraordinary when you think that, is it 375 earn over £100,000, 37-plus more than the Prime Minister? The Prime Minister is, no doubt, probably underpaid but an organisation that has 37 of its managers earning more than the Prime Minister surely ought to ask itself, you know, is this really justified?

(375人ものBBCの職員の給与が10万ポンド以上、さらに37人の給与がイギリスの首相より高い(ゴードン・ブラウン首相の給与は19万8千ポンド)というのは桁外れなことです。これは正しいことなのか、と問うべきではないですか?)

How PD James skewered the BBC’s Mark Thompson
http://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/6920354/How-PD-James-skewered-the-BBCs-Mark-Thompson.html

 このリンクをお読みいただけると判りますが、哀れトンプソン氏はしどろもどろ。僕は元日中、何度もこのインタヴューの抜粋を読んでは笑い転げていました。ちなみに、トンプソン氏の給与は約90万ポンドです。
 勘違いされませんように。僕は直接聞くことは出来なかったのですが、最も頁を割いて報道したテレグラフによると、PDJの姿勢はとても謙虚で、決してトンプソン氏を声高になじる、というものではなかったそうです。とても穏やかな口調で、彼女が信じる「正当」をBBCの最高責任者に問い質すPDJ、聞きたかったです。

 順序が逆になりますが、インタヴューの最初の部分で、PDJは今のBBCのことを以下のように表現しています。

But basically, I think it has changed and to me sometimes it seems like a very large and unwieldy ship that’s been floating there since 1920, taking on more and more and more cargo, building more decks to accommodate it, recruiting more officers, all very comfortably cabined, usually at salaries far greater than their predecessors enjoyed and with a crew somewhat discontented and some a little mutinous, the ship rather sinking close to the Plimsoll line and the customers feeling they’ve paid too much for the journey and not quite sure where they’re going, or indeed who is the captain. And that may be a little unfair but it’s, basically I think, how a lot of people might see the BBC – basically, very unwieldy and very bureaucratic and less clear about what it should be doing.

(基本的に、BBCは変わってしまっています。まるで大きくて扱いが難しい貨物船のようになって、もっともっとと荷物を積み込み、それらを積み込むためにさらにデッキを増やし人員を増やし、その人たちは高額な給与を受け取る – 中略 – 客(つまり視聴者)は旅のために払ったお金が払いすぎとわかっていながら、どこに向かっているかも、誰がキャプテンであるかもわからない。このようにいうのは不公平かもしれません、でも、多くの人は現在のBBCを非常に扱い難く役所的な機関であり、BBC自身が何すべきかまるでわかっていない、とみていることでしょう)

 言葉をつむげる人って、本当にすごいと思います。これほど簡素で判りやすく、にもかかわらず深い深い響きのある言葉、英語でも日本でもまねすることすら出来ません。

 テレグラフが最も頁を割いた理由は、昨年の下院議員たちによる税金不正使用スキャンダル報道をきっかけにBBCの役員たちの高給と天井知らずの経費使用、かつ、一部のタレントに法外なギャラが払われていることをすっぱ抜いたことがあるからとも考えられます。でも、もっとも彼らが言いたかったのは、「コモン・センスは死んでいない」、ということを伝えたかったのかな、と。いつもはバレエ・ダンス評を書いているクロンプトン女史がこう書いています。

Here, finally, on the last day of the decade, was someone saying what so many people feel. This was the real voice of Britain, or at least Britain as it aspires to be: courteous, civilised, exasperated by incompetence and inefficiency, but proud of this country’s institutions and determined to preserve and strengthen them.

PD James and the BBC: Here at last was someone saying what so many people feel
http://www.telegraph.co.uk/culture/culturecritics/sarahcrompton/6920390/PD-James-and-the-BBC-Here-at-last-was-someone-saying-what-so-many-people-feel.html


 The Timesは記事の冒頭で、かつてPDJが彼女の小説の本質を表現したことを引用しています。

What the detective story is about is not murder but the restoration of order.

P.D. James attacks BBC over ageism and executive pay
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/tv_and_radio/article6972479.ece
(タイムズのリンクは、いつまで有効なのかわかりませんので、興味のある方は早めに印刷したほうがいいかと)

 ここで彼女が使っているorderを「秩序」とするなら、彼女が長年愛してきたBBCが失ってしまった「秩序」を取り戻すきっかけを、PDJはトンプソン氏に提供したかったのかもしれません。そのほかのリンクを以下に。

Baroness James, and her killer instinct

http://www.telegraph.co.uk/comment/personal-view/6924203/Baroness-James-and-her-killer-instinct.html

PD James attacks BBC's 'overwhelming burden of bureaucracy'

http://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/6917252/PD-James-attacks-BBCs-overwhelming-burden-of-bureaucracy.html

PD James accuses 'unwieldy, bureaucratic' and wasteful BBC of losing its way
http://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/6915329/PD-James-accuses-unwieldy-bureaucratic-and-wasteful-BBC-of-losing-its-way.html


 推理小説がらみでもうひとつ。元日の夜に、民放のひとつであるITVで、ミス・マープル・シリーズのひとつが放送されました。取り上げられたのは、マープルものの初期の作品、「魔術の殺人(They do it with mirrors)」。実は、マープルものではこれだけ読んだことがなくて、こんな物語あったかな?、と思いながら観ていました。でも、面白かったです。特に、マープルを演じたジュリア・マッケンジーという方がイメイジにどんぴしゃだったので。でも、翌日電話で話したある友人は、マッケンジーには大変失望したとのこと。ま、イギリス人にとって、誰がポワロ、マープル、ホームズを演じるかはいつも喧々囂々。日本で言えば誰が水戸黄門を演じるか、実写版のサザエさんは誰がいいか、それと同じだと思います。

 PDJレンデルの仙人二人は、自身の作品のテレヴィ番組化をお気に召していないようです。

 レンデルいわく、

They(番組制作者)put a car chase in all of mine. There is no reason for a car chase but everyone likes one. In the end, you do not care.

 こんなこと、日本の作家はいえるんでしょうか?ま、PDJレンデルも、もはや仙人。自分の創作意欲のためだけに書ける人に怖いものはないことでしょう。

P.D James and Ruth Rendell reveal dislike for TV adaptions of their books

http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/article6871835.ece


(ルース・レンデル)

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Comment

最近のNHKとミス・マーブル役について - イレーヌ・ジョリオ

守屋様、あけましておめでとうございます。年末・お正月、いかがお過ごしだったでしょうか?

さて、この記事で、守屋様はBBCの「尊大化」を述べておられますが、こちらの日本放送協会、つまりNHKも相当なものだ、と最近痛感しています。
昨年の総選挙で、自民党から民主党へ政権が代わりましたけれど、このNHKの記者・解説員がなんと民主党議員を見下している事か。NHKが長年政権与党にあった自民党議員と癒着していた事は隠しようがない、って感じです。「なんでも、政治の事は自分達の方がよく知っている」と、各種報道番組でそういう態度が見え見えなのです。傲慢以外何者でもありません。
本当に最近、NHKの「尊大化」が目立つこの頃です。

次に、「ミス・マーブル役」ですけれど、私には、昔、’NHK’で放送されていた海外ドラマでのイギロス女優、アンジェラ・ランズベリーの印象が強いです。ランズベリー、今から約60年前のイングリッド・バーグマン主演映画「ガス燈」に若い女中役で出演していましたけれど、今でもご存命でいらっしゃるでしょうか?生きていればもう90歳は軽く超えていると思います。
最近、映画「慕情」のジェニファー・ジョーンズさんが90歳で亡くなった、というニュースで、「まだ生きていらっしゃったのか」という感慨を抱いたばかりです。
2010.01.08 Fri 01:21 URL [ Edit ]

思わず… - yukkie

はじめまして。
いつもブログは拝見していましたが、推理小説好きなので、コメントせずにはいられませんでした!

ルース・レンデルは存じ上げてましたが、PDJさんは初めて知りました。恥ずかしい…。

私もイレーヌ・ジョリオさんと同じく、ミス・マープル役はアンジェラ・ランズベリーの印象が強いです。
ちなみにご健在で、最近もキャサリン・ゼタ=ジョーンズとブロードウェイの舞台に立っていました。

イギリスの方にとって、ポアロ、ミス・マープル、シャーロック・ホームズの配役は皆さんこだわりがあるんですね。イギリスでは誰が演じたポアロ、ミス・マープル、シャーロック・ホームズが、一番評判がいいのか大いに興味のある所です。
2010.01.08 Fri 15:33 URL [ Edit ]

- 守屋

イレーヌ・ジョリオさん

 おめでとうございます。イギリスにいると、日本の正月という雰囲気は希薄です。

 NHKが尊大かどうかはわかりませんが、BBCとNHKに共通するのは税金の二重取りということではないかと思います。にもかかわらず、BBCのトップの給与が、イギリスの首相より数倍も多く払われ、日本円にすれば1億5千万円以上というのは、税金で賄われる「公共放送」とは思えないです。

 ランズベリーは、映画化された「鏡は横にひび割れて」で主演を演じたので印象は強いと思います。彼女、「ナイル殺人事件」では殺される役でしたね。あの映画、マギー・スミスやデイヴィッド・ニヴン、ベティ・デイヴィスやミア・ファローが出演していて、豪華なキャストでした。
2010.01.09 Sat 20:18 URL [ Edit ]

- 守屋

yukkieさん
 
 始めまして。コメント、有難うございます。

 なんといっても、PDJは早川書房のポケミスで上下巻という部厚さですから、それだけでも敬遠してしまう方もいるのではないかとたまに思います。それでも、初期のものや、「女には向かない職業」等は面白いと思います。他に、イギリスの推理小説にご興味があるのなら、著名作家が連作で書いた「漂う提督」は奇作です。

 僕は、ポワロはアルバート・フィニーでも、ユスチノフでも、デイヴィッド・スーシェでもまったく気になりません。ただ、僕の周りでは、ユスチノフは不人気です。スーシェは素顔を見ると、そのギャップにびっくりします。
 ガイ・リッチー監督のホームズは、ホームズに見えません。
2010.01.09 Sat 20:33 URL [ Edit ]

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