LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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歌手が「歌」になるとき:カリタ・マッティラ@ウィグモア・ホール

2010.09.12
If I was wise, I should not do any more, but I am not. I just turned into 50yo and my life is getting finer.
Such an honor to be here tonight and warmth from the audience. It was 13 years ago when I last sang here. This is for you.

The extraordinary and tearful soprano, then, started to sing Zueignung (dedication) by Strauss.



 9月10日、ウィグモア・ホールの2010/11シーズンが開幕した。今年は、同ホールがオープンして110周年ということで、年間を通してのプログラムは昨年とは比べられないほどの充実振り。いくつかのリサイタルは、ティケット争奪戦は一般発売前に終わってしまうことは確実の編成。カウフマン、アルゲリッチ、バレンボイム、バルトリなんて一般発売には出回らないだろう。
 そしてそんな激戦のひとつが、シーズン開幕の10日、フィンランド出身のソプラノ歌手、カリタ・マッティラのリサイタル。持つべきものは友、高いほうの会員になっている友人に便乗させてもらったので、前から4列目のど真ん中に座れる幸運に恵まれた。

Mattila7.jpg
(世界のソプラノなんだから、そろそろ新しい肖像写真をリリースしてほしい)

会場に早めに着いてみると、ホール内ではリハーサルが続いていた。扉越しに聞こえてくるにもかかわらず、マッティラの声は絶好調のようだった。

 いくつか空席があったのは意外だったが、ホール内はほぼ満席。素晴らしい歌を聴けるに違いないという期待が、ホール内を満たしているようだった。
 いつもの前説の男性が登場し、聴衆へいつもの注意事項を説明し始めた。特に咳に関しては何度も何度も言及していた。最後に、マッティラの調子は最高ではないけど、彼女は歌います、と伝えて下がっていった。
 不安がよぎる。あくる11日に予定されていたアンゲリカ・キルヒシュラーガーのソロ・リサイタルは本人が病気のため、急遽、イギリス人メゾソプラノのセイラ・コノリーに差し替えられた。風邪でもはやっているのだろうか。でも、リハーサルで聞こえた声にはそんな気配がなかった。

 やがて舞台後方右側にある扉が徐に開かれ、カリタ・マッティラとピアニストのマーティン・カッツが登場した。マッティラは背中が開いた、新緑を少し燻した感じの緑色のイヴニング・ドレス。「Wigmore Memories」と銘打たれた当夜のプログラム。

Wigmore Memories
Performers
Karita Mattila soprano
Martin Katz piano

Programme
Berg Sieben frühe Lieder

Brahms
Vergebliches Ständchen Op. 84 No. 4
Der Gang zum Liebchen Op. 48 No. 1
Meine Liebe ist grün Op. 63 No. 5
Von ewiger Liebe Op. 43 No. 1

Sibelius
Illalle Op. 17 No. 6
Vänskapens blomma Op. 57 No. 7
Demanten på marssnön Op. 36 No. 6
Våren flyktar hastigt Op. 13 No. 4
Flickan kom ifrån sin älsklings möte Op. 37 No. 5

Strauss
Der Stern Op. 69 No. 1
Wiegenlied Op. 41 No. 1
Allerseelen Op. 10 No. 8
Frühlingsfeier op 56 no 5

About this concert
To open Wigmore Hall’s 110th anniversary season we have a very special event. Hailed by Musical America in 2005 as ‘the most electrifying singing actress of our day’, Finnish soprano Karita Mattila traces almost a century of Austro-German song, and includes a selection by her compatriot Sibelius.



 多分、最後のリヒャルト・シュトラウスの3曲以外は初めて聞く歌ばかり。だから、歌のことは何もわからない。できることは、彼女の歌に身を任せることだけ。確かに、調子は絶好調ではなかったのかもしれない。歌い終わると、何度か喉に手を添える仕種をしていた。でも、咳なんて一度もしなかった。
 マッティラの声は僕の理解をはるかに超えていた。信じられない。この声は何によって生み出されているのか?ホーキング博士は、新著で神がこの世界を創造したのではないとした。そうなのだろう。でも、ウィグモア・ホールを満たすマッティラの声は何者かの力と意志があってこそという響きしか感じられなかった。

 いつもより長いと感じるインターヴァルの後、マッティラは同じデザインの黒いドレスに着替えていた。フィンランド語とスウェーデン語で歌われたシベリウスの曲では、歌の内容を追うのをやめた。マッティラの歌う姿を見ないでいるなんてできなかった。

 シュトラウスの最初の3曲は、これまで別の歌手で何度か聞いたことがあるもの。まったくの別の歌に聞こえた。
 最後の「Frühlingsfeier」(rite of spring)は、プログラムによると、「ザロメ」を作曲し終わり、「エレクトラ」に取り掛かり始めたころにシュトラウスが作曲したものとのこと。詩はハイネ。

 詩の内容、まさしくシュトラウスな荒々しい旋律はどちらもとてもブルータル。マッティラは腕を振り上げ、何かを砕くように打ち下ろし、身をよじり、引き裂かれるように歌い続ける。のどからだけでなく、体全体から奔流のように流れ出る感情の迸りは言葉で書き換えられるレヴェルではない。これが奇蹟でなかったら、何が奇蹟だろうか。
 マッティラは、歌の内容を舞台上に声で描き出そうとしているのかと思った。

 違う。歌になりたかったのか、それとも歌になってしまったのか。勝手な想像に過ぎない。でも、あの時、マッティラは「歌」そのものになっていた。

 一度目のカーテン・コールでは彼女には花束が二つ、カッツにはワインかシャンペンのボトルが贈られた。「私にもそのボトルを見せなさいよ」といった感じの茶目っ気をそのときはまだ見せていたマッティラだが、何度かカーテン・コールに応えるうちに感情が高まってきたようだった。何度目かのコールに応えて二人が出てきたとき、カッツは譜面を持っていた。
 舞台の中央に立ったマッティラの目は、潤んでいた。そして聴衆に向けて話し始めた。

If I was wise, I should not do any more, but I am not. I just turned into 50yo and my life is getting finer.
Such an honor to be here tonight and warmth from the audience. It was 13 years ago when I last sang here. This is for you.


 カッツがピアノを弾きだしてすぐ、「Zueignung」だと判った。予定調和といえばそれまで。でも、この歌のほかに、この桁外れに美しい夜への帳を下ろせる曲はなかった。



 何かが外れてしまったようなブラヴォーの嵐に何度もうなずきながら、名残惜しそうに舞台から去っていくカリタ・マッティラの姿は、とてもとてもとてもとても、とっても愛おしかった。

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