LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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イングリッシュ・ナショナル・オペラ:ファウストの劫罰

2011.06.06
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コースワークの締め切りだった6月2日に、イングリッシュ・ナショナル・オペラの「ファウストの劫罰」を見てきました。ベルリオーズ作曲による、オペラというよりはオラトリオとみなされることもあるらしいこの作品を、オペラ演出は初めてとなるテリィ・ギリアムが手がけたということで話題になっていたオペラです。モンティ・パイソンは全く理解できないので行くつもりではなかったのですが(http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1366.html)、批評によると演出だけでなく歌手陣も素晴らしいということで、偏見を脇において観にいって大正解でした。先にご覧になられた方のレポです。

http://blog.goo.ne.jp/bigupset39/e/9567ef8a5679aeea98ad193f27c79ac8

 僕もギリアムの「未来世紀ブラジル」には、観た当時は映画の主題を全く理解できなかったにもかかわらず、鮮烈な印象を植え付けられました。僕は映画をほとんど観ないので、ギリアムの映画監督としてのキャリアは全く知らないに等しいですが、ENOがギリアムにこの「ファウストの劫罰」の演出を依頼したのはオペラ界にとって新たな方向性を見出せたようにおもいます。たとえば、映像の使われ方。これまで、何度かオペラやバレエで映像が使われた舞台を観てきましたが、映像が気に障るか、もしくはまったく印象に残らないという極端な舞台が多かったです。ところが、ギリアムの意向によるであろう映像は、物語の進行を邪魔するどころか舞台で展開する物語に多次元的な幅、深みをもたらしていたように感じました。
 もうひとつ、ご覧になられた方が書かれているように、「ナチス」の存在を前面に出したことで、僕個人に限りますが、予想していなかった印象でいっそう舞台にのめりこむことができました。
 ある場面で、ナチスの秘密警察と思しき男たちが、ユダヤ系の人たちの胸に黄色に輝く星を貼り付けていきます。この場面に、頭をガツンと思いっきりたたかれました。昨秋から参加していた精神医療のワークショップの中で、何度も取り上げられてきた話題は「ラベリング」。簡単に言うと、「スキゾフレニア」とか「双極性障害」という症状名(ラベル)がラベルを張られた側だけでなく、張った側にももたらす影響、つまり偏見、ストレス、社会からの隔絶、孤立等々の議論が一気に頭の中に沸きあがってきました。



 僕はユダヤの皆さんの悲劇、ナチスの残虐行為をきちんと理解していませんのでもしかしたら理不尽なことなのかもしれません。また、歴史に「if」を持ち込むことの無意味さはわかっているつもりです。でも、黄色の星(ラベル)を張られた側(ユダヤ)と張った側(ナチス)の違いは何だったのだろうか?どうしてその星(ラベル)をはがすことができなかったのか?そんな堂々巡りの思いは最後には大昔に読んだ「緋文字」、そして「スタンフォード監獄実験http://en.wikipedia.org/wiki/Stanford_prison_experiment、これも看守と受刑者という人為的なラベルによってもたらされた狂気です)」が頭の中でぐるぐる回るという状況に。
 逆に、ギリアムの演出によって僕なりの解釈で観てしまったために、「ファウストの劫罰」のもとの意味合いは薄れてしまったように思います。英訳された歌詞の中で、マルグリーテが「逮捕された」というのが出てきたとき、一瞬、どうして彼女が逮捕されるんだろうと。終演後、帰宅途中にやっと、「そうか、未婚で身籠った彼女を教会が連れ去ったのか」と思い至りました。 大学の恩師から、マルガレーテが逮捕されたのは嬰児を殺したからと教えられました。ということで、今回の「ファウスト」ではギリアムの演出は吉と出ましたが、どんなオペラでもいいというわけにはいかないのではないかと思います。もちろんギリアム自身も選ぶでしょうけど、「セビリャの理髪師」とか「薔薇の騎士」や「ナクソス島のアリアドネ」なんかは無理ではないかと感じます。僕が観にいった日は、カメラが入っていたので、BBCで放送されるか、もしかしたらDVDの発売もあるかもしれません。

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 「ファウストの劫罰」を通しで聴くのは今回が初めてでしたが、旋律の美しいこと。飽きることなど全くありませんでした。来シーズンのプログラムに全く食指が動かないロイヤル・オペラですが、シーズン最後にベルリオーズの超大作を上演する予定なので、それへの期待がぐんと高まりました。歌手の皆さん、そしてコーラスも素晴らしく、視覚、聴覚、社会心理学的欲求等々、あらゆる感覚が挑戦され、刺激される素晴らしい舞台でした。このようなオペラが日本でも上演されて欲しいものです。

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Comment

- ハマちゃん

私はモンティ・パイソンは大好きで
テリー・ギリアムが多才な人ということもなんとなく知ってはいましたが
こんな幅の広い人だったとは。

確かに、ギリアムが手がけて吉と出る作品は凄く限られると思いますし、だから「ギリアムだから吉」な作品をバッチリ嗅ぎ分けているんですね。
今検索してて知ったんですが、ギリアムは元々アメリカ人なんですね。(現在は英国籍)
それもビックリしました。

最後に載せられている写真の左の人、
Richard O'Brienみたいに見えるんですが、違うかな…?
(彼はミュージカルはやるみたいですが)
2011.06.07 Tue 13:14 URL [ Edit ]

- 守屋

ハマちゃん さん

 ギリアムは、北部ロンドンの閑静な住宅地である、Highgate在住です。今回の上演を前にいくつかインタヴューに答えていましたが、本人もイギリスの生活を楽しんでいるようでした。

 「ギリアムだから吉」なオペラってなんだろうと考えてみました。ワーグナーはかなり可能性高いように思います。また、ヘンデルやハイドン等の、ギリシャ神話を題材にした、物語が荒唐無稽なオペラもギリアムには合うかもしれないですね。

 メフィストレフェレスを演じたのは、Christopher Purves というイギリス人歌手です。経歴はかなり幅広いですが、メインはオペラのようです。とても芸達者でした。
2011.06.07 Tue 16:08 URL [ Edit ]

- かんとく

守屋さん
気に入られたようで、嬉しいです。仰るようにナチスのメタファーが強すぎて、ファウスト本来の主題が良く分からんかったなあ~というところは、同感です。でも、この舞台はホントに凄まじかったと思います。2回目を狙って、最終日のチケットまで買ったのですが、結局、仕事で直前でリターンしてしまいました。残念。早くリバイバルしてほしいです。
2011.06.08 Wed 22:01 URL [ Edit ]

- 守屋

かんとく さん

 オペラの魅力が演出にだけ偏るのは賛否があるとは思いますが、今回のギリアムの演出はかなり良いバランスだったとかんじました。オペラはモーツァルトやワーグナーだけではない、ということを多くの人に伝えることができる意欲的な試みだと思います。
 来シーズンの再演の予定はないようですから、早くても2012年秋以降ではないですかね。でも、BBCで放送があるらしいですよ。
2011.06.09 Thu 21:02 URL [ Edit ]

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