LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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Ten Chi@バービカン・シアター

2012.06.17
6月6日から、サドラーズ・ウェルズ劇場とバービカン・シアターの二つの劇場で、ヴッパタール・ダンツテアターによる、「World Cities 2012」というプロジェクトが始まり、連日両劇場ともモダン・ダンスのファンで激混み状態です。この5週間に及ぶ一大企画について、サドラーズのウェブから。

http://www.sadlerswells.com/show/Pina-Bausch-World-Cities-2012

This month-long season of international co-productions is presented by Sadler’s Wells and the Barbican to celebrate the Olympic and Paralympic year’s global focus and one of the most influential choreographers in dance, Pina Bausch.

The season features ten works exploring ten global locations. Embarked upon by Bausch in 1986, the landmark series of co-productions were created at the invitation of specific global cities. Living in each city for a period of time, her company would then return to Wuppertal to create a piece inspired by their visit, a choreographic travelogue deeply informed by its host location.

Pina Bausch was born in Solingen, 1940 and died in Wuppertal, 2009. She received her dance training at the Folkwang School in Essen under Kurt Jooss, where she achieved technical excellence. Soon after, the director of Wuppertal’s theatres Arno Wüstenhöfer engaged her as a choreographer, and from autumn 1973 she renamed the ensemble Tanztheater Wuppertal. Under this name the company achieved international recognition for its unmatched ability to combine the poetic and the everyday. Led by one of the most significant choreographers of our time, Tanztheater Wuppertal has had an enormous impact on the development of modern dance and has been awarded some of the most prestigious prizes and honours worldwide.


 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、バウシュは2009年に亡くなりました。その後、世界中で公開されたヴィム・ヴェンダースによる映画によって人気急上昇とのこと。今回の企画はバウシュが存命中から進められていたそうですが、彼女が亡くなってからファンになった人も多いと思います。
 今回のチケットが発売されたのは2011年の5月。さらに各演目とも2回の上演のみということでチケットは今年の初め頃にはほぼ完売状態。先週まではちらほらリターンが出ていましたが、公演が始まり各メディアで盛大に取り上げられたことで、London 2012 Festival の中でも最も入手困難、さらに大成功の企画になっているようです。

 バウシュの大ファンという訳ではないのですが、これほど大規模な懐古的企画は今後無いかもしれないということ。カンパニーを支えてきたヴェテランのダンサーたちがリタイアする年齢に達してきているということで昨年の5月に購入しました。

http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1375.html

 前置きが長くなりましたが、2004年に埼玉で初演された「Ten Chi」をバービカンで観てきました。

Ten Chi
Attempted approaches - between people and between cultures. What works and what doesn’t. And time and again it can be sensed that love is what makes people great.*

On a stage decorated with cherry blossoms and whale fins, the dancers of Tanztheater Wuppertal explore with empathy and humour the sounds, sights, joys, and paradoxes of modern Japanese culture.

Ten Chi appears as though a series of postcards from Japan, incorporating images of food, birds and fish, Japanese hand gestures, kabuki, kimono, bonsai, samurai, Polynesian dance movement and even Japanese horror film.

A piece by Pina Bausch in co-production with Saitama Prefecture, Saitama Arts Foundation and Nippon Cultural Centre. Premiere 8 May 2004.


 これまでヴッパタールを3回観ました。まともなことを書いたのは4年前に観た「春の祭典」のみ(http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-722.html)。今回はどうかなと不安な気持ちは有ったのですが、終わってみれば思っていた以上に楽しめた舞台でした。

 舞台にあるのは、クジラの尾びれの大きなセットだけ。外連味など何もなし。捕鯨存続か反対を騒いでいるのは、結局アメリカとオーストラリアなどのほんの数カ国だけで他の国には全く無意味なことなのかもしれないなと考えながら眺めていました。

 解説にある通り、意味のありそうな、なさそうな場面の連続で舞台で繰り広げられる台詞、踊り、ムーヴメントから一つ一つ意味を見いだすのは不可能だと感じました。舞台が始まって数分後に、現在のカンパニーを牽引するドミニク・マーシィ(61歳)が舞台の端に発って観客一人一人を指差し、「君はいびきをかくかい?」と尋ねて目をつぶって歌うようにいびきをかいたり、なんだかとっても怖い壮年女性ダンサーがチュール地の衣装を男性に引破られながら笑い続けたり。
 グロテスクに歪曲された日本のイメイジを恐れていたのですが、さすがというか、バウシュはそんな矮小な心配を一顧だにしていませんでした。一幕の後半から舞台に降り始めた桜吹雪(休憩中も降り続き、舞台セットとしては秀逸)は2幕はずっと降り続き、大きな白い枕を顔に押し付けた女性ダンサーが、おそらく日本の怪獣映画へのオマージュなのかなと思わせる擬音を枕を投げ捨てたり、アクションを起こすたびに張り上げる場面では、会場中が大爆笑。でも、日本を想起させる場面は全体の半分も有ったかどうか。個人的に最もダンスに引き込まれたのは、森山良子さんによる「サトウキビ畑」に合わせて静かに踊られる女性ソロ。バウシュは歌われている内容を知っていたのだろうか、と。

 2幕が始まってだいぶ経ち、舞台がどの方向に進むのかが判らなくなってきて集中力を失い始めたときに、ダンサーが次々に舞台に現れては、駆け回り、激しく踊りというシーンが始まりました。「日本」というシンボルに縛られない、縛られなければならない理由を全く感じることのない普遍的な力にあふれていました。
 (おそらく韓国系の)女性ダンサーが一人で踊り続けるなか舞台は暗転。観客は総立ち状態。ダンサーの皆さんも、体力を使い切った感じでしたが、嬉しそうでした。

 今回10作品も公演されることで、新聞各紙のダンス・クリティクの皆さんは全開状態。といっても無闇に褒めちぎることはありません。ちょうど前半を折り返したところですが、これまで上演された、特に20世紀に作られた「ヴィクター」や「Nur Du」は長過ぎるとか、ダンスが少なすぎるとかの意見があがっています。納得だったのは、17日のサンディ・テレグラフのルイーズさんで、「バウシュが持っていなかったのは、作品を編集する技術」。最初の「ヴィクター」は休憩を入れて3時間半だったそうです。
 昨晩は、日本でインスパイアされた振り付けということで日本人の観客が居るかなと思っていたのですが、ほとんど居ませんでした。チケットの購入が1年以上も前では仕方ないのかなと。
 会場内で隣り合ったのは、ロンドン在住の台湾人のご夫妻。休憩時間中に感想を尋ねてみました。旦那は純粋に楽しいといっていましたが、面白かったのは、奥さんの意見。「女性ダンサーが腹切りとかサムライといったのは、日本の文化を真剣に理解していないと感じたわ」。この場面、もう一人の強面の女性ダンサーが「sushi, sushi, sushi, sushi,sa si su se so so so」という具合に言葉遊びの要素が強い場面でした。僕は大陸風の一風変わったユーモアととらえましたが、台湾の方が日本の文化をもっと真剣にと言及したことが面白かったです。台湾、訪れたことは無いですが、俄然、興味がわいてきました。この夫妻がすごいのは、9演目観るそうです。

 「World Cities 2012」が始まる前に、ヴッパタール・ダンツテアターについての記事がたくさん掲載されました。最も紙面が割かれたのは、今後、カンパニーはどうするのかということ。
 言わずもがなですが、創始者のバウシュが他界した後、彼女の名前を冠した作品が作り出されることはありません。また、カンパニー初期からバウシュとともに居たヴェテラン・ダンサーたちの年齢的な限界。ヴェテラン・ダンサーたちの引退前に、バウシュの振り付け、思想は次世代に受け継げるのか否か。
 2009年には、アメリカのモダン、コンテンポラリィ・ダンスを代表するマース・カニンガムも亡くなっています。ヴッパタールとは全く対照的に、彼のカンパニーは彼の意思により、死後2年間をもって解散になりました。確か、最後のロンドン公演は昨年の秋に行われたはず。
 唯一無二の芸術家によって始まった唯一無二のパフォーミング・アーツは、そのカリスマが表舞台から去ったあとどうなるのか?ヴッパタール・ダンツテアターへは現在でも世界中から公演のオファーが引きもきらないそうです。が、今後のことについては、ある新聞のインタヴューでドミニクさんはまだ明確な計画は無いと言っていたような。

 2004年の初演以降、「Ten Chi」が日本で上演されたかどうかは知りませんが、モダン・ダンス・パフォーマンスとしては、多くの人にとって取っ付き易い作品だと思います。踊りを観ることの楽しさ、踊りというフォーマットが持つ高いコミュニケイション力を感じられるのではないかと思います。

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Comment

ご無沙汰しております - YOSHIO

ご無沙汰しております。
ちょうど自分の大学時代の先輩のピナ・バウシュマニアの方がロンドン公演を観に行ったという話を聞いた後に記事を拝読し、大変嬉しく思いました。

…自分は1993年の「山の上で叫び声が聞こえた」以来、来日公演はぼちぼち観てはいるのですが(「Ten Chi」は拝見した記憶がありません)、理解できているとは思えないレベルの不勉強な観客です。ただピナ・バウシュの作品に「踊りを観ることの楽しさ」がほとばしっているのはまったくお書きになられたとおりだと思っています。

オリンピック・イヤーでロンドン紹介番組の数もかなりになっていますが、芸術イベントの質量ともにすごいですね。また記事を楽しみにしております。
2012.06.24 Sun 06:12 URL [ Edit ]

- 守屋

YOSHIO さん

 コメント、ありがとうございます。すっかり返信が遅くなりました。

 僕も、ピナ・バウシュに関しては初心者です。一方で、バウシュが残した振り付けは30演目だけだそうなので、機会さえあれば誰でも上級者になれるかもしれないですね。

 バンブー・ブルースを観に行った日、インターヴァル中にドミニク・マーシィさんが会場に居たので日本公演の予定があるのか尋ねました。カンパニィは日本で公演を再びしたいそうですが、現在のところオファーが無いと言っていました。映画を見て初めて興味を持った人も居るでしょうから、実現するといいですね。
2012.06.27 Wed 17:50 URL [ Edit ]

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