LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
Home未分類 | Dance | Sylvie Guillem | Royal Ballet | Royal Opera | Counselling | Sightseeing | Overseas Travel | Life in London(Good) | Life in London(Bad) | Japan (Nihon) | Bartoli | Royal Families | British English | Gardens | Songs | Psychology | Babysitting | Politics | Multiculture | Society | Writing Jobs | About this blog | Opera Ballet | News | Arts | Food | 07/Jul/2005 | Job Hunting | Written In English | Life in London (so so) | Speak to myself | Photo(s) of the day | The Daily Telegraph | The Guardian | BBC | Other sources | BrokenBritain | Frog/ Kaeru | Theatre | Books | 11Mar11 | Stage | Stamps | Transport | Summer London 2012 | Weather | Okinawa | War is crime | Christoph Prégardien | Cats | Referendum 23rd June | Brexit 

芸術が存在する意義はどこに

2012.10.31

(Lucian Freud’s Large Interior, W11 (after Watteau), 1981-3,今年観た絵画の中で最も衝撃を受けた作品)

ここに書くことは、自分でもなんて小賢しく、全く消化されていな戯れ言に終わると思うのですが、2012年、これまで触れたことの無かった芸術を様々なかたちで体験し、それが自分の血肉になる過程での混乱と衝突の現れかと思っています。

 10月、ガーディアン紙とオブザーヴァ紙で現代美術の動向に関する興味深い記事を読みました。中旬に掲載されたのは、現代美術(主にヴィジュアル・アートで、舞台芸術関連、音楽全般は含まれていません)を牽引する100人のリストについてでした。

ArtReview's Power 100 list reveals art-world battle for supremacy
http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2012/oct/18/artreview-power-100-list-world

 僕自身、現代美術のすべてに通暁していることは全くなく、知らなくて当然と言えば当然です。しかしながら、100人のうち顔を思い浮かべられるのは10人も居ないということに、「現代美術って、まず、誰のためにあるのだろうか?」という自分への質問を考えました。リストは、記事の最後に掲載されていますので、是非、眺めてみてください。

 この記事で圧倒されたのは、キュレイター、そしてディーラーの絶対的な存在。むかしから芸術を擁護し、発展させて来たのはパトロンであり、その芸術を売り込むディーラーがいてこそなのだろうことは理解できます。でも、記事を読むと彼らの活動規模、そしてそのディーラーたちが取り上げ、集め、展示する美術へのアクセスが、普通に美術に接したい人には昔以上に困難になりつつあるのではということを感じます。

Second, fourth and fifth place on the list, however, are occupied by the macho blast of the world's most dominant art dealers: Larry Gasgosian, Iwan Wirth and David Zwirner. US dealer Gagosian this week added a new Paris space to his already huge portfolio of galleries, spanning Los Angeles, Hong Kong, London, Rome, Athens, Geneva and New York. The new gallery, in the north-east outskirts of Paris, is in the grounds of Le Bourget airport, the most important hub for private aviation in the city – the billionaire equivalent of providing a carpark. In September, the Art Newspaper reported that the combined floor area of Gagosian's 13 premises is set to overtake that of Tate Modern.

 リストの2位にランクされたラリィ・ガゴシアンは最近パリにギャラリィを開いた。(中略)ガゴシアンが所有する13のギャラリィの総床面積は(ロンドンの)テイト・モダン以上になる。

http://www.gagosian.com/

 テイト・モダンって、広いんです。その広い美術館を、いち個人(もしくは会社)が所有するギャラリィが凌駕するという事実。ガゴシアンは、ロンドンではキングス・クロス駅から至近の場所にあり、物理的なアクセスが限定されている訳ではないです。

Paul Noble
http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1512.html

村上隆
http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1420.html

 自分で観に行っておいて言うべきではないかもしれないですが、もしかしたら多くの人にはクズに映るかもしれないけど、こんな面白い展示をどうしてもっと広く宣伝しないのか、と。一部の好事家、蒐集家だけが来れば良いんですか、と。

 記事の中程で紹介されているカタール王族の女性メンバー。

Despite the global economic crisis, the continued expansion of such high-end galleries reflects, according to Rappolt, the strength of the top end of the contemporary art market, bolstered by the desire among tycoons to "enter the weird social elite that collecting art creates". This elite is small but highly international, and this year is registered on the ArtReview list by the meteoric rise of Sheikha Al-Mayassa bint Hamad bin Khalifa Al-Thani, who has shot up nearly 80 places since last year to No 11 on the list. A daughter of the emir of Qatar, she is the chair of the Qatar museums authority, and is rumoured to have spent, with her family, over £600m on western art over the past decade, including works by Damien Hirst and Mark Rothko.

 記憶違いでなければ、ドーハで開かれた村上隆さんの展示を実現させたのはこの女性だと思います。この部分の出だしを読むと、もてはやされる現代美術の潮流は、一部のコレクターとディーラーによってつくられているのではないかと思えて来ます。現代美術はパワフル・マイノリティにためにあるのか、それともパワレス・マジョリティがその流れを変えることはできるのか、と。

 今年は、オリンピックと平行して開催されたカルチャラル・オリンピアード、そしてロンドン2012フェスティヴァルのおかげで、それ以前の単なる美術館通いと言う視点から、展示される絵画や彫刻などがなぜ美術館にあるのかという視点で美術展を体験することが何度もありました。自分が感動したという純粋な想いを慈しみ反芻する同時に、絵画が生み出された状況を多角的に考える貴重な機会を何度も経験しました。
 もちろん、どの展示も素晴らしい体験であったことは疑問の余地はないです。しかしながら他方、本当に本当に自分が心の底から何かを感じ取りたいと願った芸術だったのか、という小さな疑問が夏の終わり頃から芽生えました。簡単に言ってしまえば、消化不良だと思います。

 そんな小さな逡巡を抱えていた先週に読んだのが以下の記事。

Doyen of American critics turns his back on the 'nasty, stupid' world of modern art
http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2012/oct/28/art-critic-dave-hickey-quits-art-world

Dave Hickey, a curator, professor and author known for a passionate defence of beauty in his collection of essays The Invisible Dragon and his wide-ranging cultural criticism, is walking away from a world he says is calcified, self-reverential and a hostage to rich collectors who have no respect for what they are doing.

"They're in the hedge fund business, so they drop their windfall profits into art. It's just not serious," he told the Observer. "Art editors and critics – people like me – have become a courtier class. All we do is wander around the palace and advise very rich people. It's not worth my time."

Hickey's outburst comes as a number of contemporary art curators at world famous museums and galleries have complained that works by artists such as Tracey Emin, Antony Gormley and Marc Quinn are the result of "too much fame, too much success and too little critical sifting" and are "greatly overrated".

"Money and celebrity has cast a shadow over the art world which is prohibiting ideas and debate from coming to the fore," he said yesterday, adding that the current system of collectors, galleries, museums and art dealers colluding to maintain the value and status of artists quashed open debate on art.

As a former dealer, Hickey is not above considering art in terms of relative valuation. But his objections stem from his belief that the art world has become too large, too unfriendly and lacks discretion. "Is that elitist? Yes. Winners win, losers lose. Shoot the wounded, save yourself. Those are the rules," Hickey said.


 超端折った訳ですが、現代美術はヘッジ・ファンド・マネイジャーが余った資金で作品を買い漁るだけ。批評家やディーラーはまるで彼らの買い物の指南をしているだけの存在になってしまっている。
 トレイシィ・エミンやアントニィ・ゴームリィ等の現代美術家は、過大評価されすぎている。現代美術の世界は、肥大化し、そしてとても冷淡になっている。

At 71, Hickey has long been regarded as the enfant terrible of art criticism, respected for his intellectual range as well as his lucidity and style. He once said: "The art world is divided into those people who look at Raphael as if it's graffiti, and those who look at graffiti as if it's Raphael, and I prefer the latter."

 この段落の最後の、「美術界は、二つのグループに分かれている。一つはラファエルを落書きのように観るグループ。二つ目は落書きをラファエルのように観るグループ。僕は、後者でいたい」。前者は、現代美術の価格をつり上げるスーパー・リッチを皮肉っているのだとは思いますが、ちょっと薄いですね。

He also believes art consultants have reduced the need for collectors to form opinions. "It used to be that if you stood in front of a painting you didn't understand, you'd have some obligation to guess. Now you don't," he says. "If you stood in front of a Bridget Riley you have to look at it and it would start to do interesting things. Now you wouldn't look at it. You ask a consultant."

 かつては、目の前にある絵画を理解できないときには、自ら(その意味を)考えることが要求された。しかし今では、目の前にある絵画を観ることすらしない。すぐにコンサルタントに尋ねるだけだ。

 このデイヴ・ヒッキィさんという方を、そして彼の業績を僕は知りません。有り体に言えば、彼の発言を負け犬の遠吠えととらえる人もいると思います。また、生きていくことがとても難しくなって来ている現代社会で、現代美術のプライオリティが日常生活の中で占める割合は縮小しているであろうとも考えます。

 でも、購入する資金も、鑑賞する時間の余裕は無いかもしれないけど、美術館やギャラリィに通うサイレント・マジョリティを無視するような芸術は時代を切り開けないのではという希望を捨て去ることはできないです。最初の記事のリストに戻りますが、リストのトップは普通の人々であるべきなのではないかと言うのは、ナイーヴすぎるかもしれないですが。

関連記事
スポンサーサイト

Comment

- Yoshi

こんにちは。一部のhigh artsがごく一部の目利きやエリートのパトロンによって支えられているのは古代以来変わらず、中世やルネサンスの美術も当時はそうだったと思います。そういう意味で、現代美術も現代のミケランジェロかもしれません。これは私の好きな演劇でも、あるいは学問、特に人文科学研究の世界でも同じですね。理系だと、最終的に何かの役にたつでしょうが、人文だと『古事記』研究でお腹が膨れることはないでしょうから。

ただ、問題は公的な材源、税金などが多く使われる場合ですね。少数の批評家が褒め、大金持ちが投資の対象として値段をつり上げたバブル的アート・ワークを国や自治体の美術館が高額の税金を投じて買うとしたら問題です。素人の市民感覚で、こんなものに何故税金使うの、という人がもっと出て来て、同じ使うにしても、出資者である市民にも大きな発言権が欲しいですね。例えば、自治体の美術館なら、その土地の市民からなる審議会が専門家の意見と並んで、作品の選定方針などに大きな発言権を持つとか・・・。そういうこと、すでにあるんでしょうかね。
2012.11.03 Sat 01:26 URL [ Edit ]

- 守屋

Yoshi さん

 こんにちは。最近、友人がミクシィにアップしてくれた子育て論等の情報で、簡単に「昔は良かった」ということがいかに思考を停止しているかを考えているので、美術・芸術を育てるパトロンの存在については、本質は変わっていないと思いますし、それが悪いことであるとすぐに決めつけないように自分を戒めています。
 僕の中で、「すべての芸術を観たい」という欲求と、そのようなことは実現不可能と判っている葛藤がこのポストを書くに至ったと思っています。

 矛盾するかもしれないですが、市民が芸術作品の選定や美術館の運営にかかわることには懐疑的です。必要であろうと考えるのは、「非難・批判」ではなくて「critical analysis」や「critical review」が活発に交わされる環境になればと。理想論かもしれないですが。
2012.11.03 Sat 14:01 URL [ Edit ]

管理者にだけ表示を許可する

Template by まるぼろらいと

Copyright ©LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン All Rights Reserved.