LONDON Love&Hate 愛と憎しみのロンドン

1999年のクリスマス・イヴにロンドンに。以来、友人達に送りつけていたプライヴェイト・メイル・マガジンがもと。※掲載されている全ての文章の無断引用・転載を禁じます。
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生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

2014.09.24
okamayumi.jpg

一時帰国中に、実家で読んでいた朝日新聞に掲載された著者のインタヴューに興味を惹かれて購入。とても面白いフィールド・ワークの本。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?code=217997

徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最”希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。
 コミュニティと住民気質に鍵があると直感した著者は、四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。
 ゆるやかにつながる、「病」は市に出せ、“幸せ”でなくてもいい、損得勘定を馬鹿にしない、「野暮ラベル」の活用など、生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。

第1章  事のはじまり ―海部町にたどり着くまで

第2章  町で見つけた五つの自殺予防因子 ―現地調査と分析を重ねて
いろんな人がいてもよい、いろんな人がいた方がよい/人物本位主義をつらぬく/
どうせ自分なんて、と考えない/「病」は市に出せ/ゆるやかにつながる

第3章  生き心地良さを求めたらこんな町になった ―無理なく長続きさせる秘訣とは
多様性重視がもたらすもの/関心と監視の違い/やり直しのきく生き方/
弱音を吐かせるリスク管理術/人間の性と業を知る

第4章  虫の眼から鳥の眼へ ―全国を俯瞰し、海部町に戻る
「旧」市区町村にこだわる理由/最良のデータを求めて/指標が無いなら作るまで/
海抜五百メートルの山と高原/地理的特性の直接・間接的影響/海部町の「サロン」活用法 

第5章  明日から何ができるか ―対策に活かすために
  「いいとこ取り」のすすめ/思考停止を回避する/“幸せ”でなくてもいい/
  危険因子はゼロにならない/人の業を利用する/「野暮ラベル」の効用



 先に小さな不満を3つ。最初の三つの章は、著者の仮説が海部町での見聞と全て面白いように一致する、という印象をたまに持ってしまった。これは、この本が論文そのものではなく、商業的な本であることのだからかもしれない。
 二つ目は、本書の最後にある「調査と分析の流れ」の中で、海部町が、調査をした近隣二つの町と比べて、経済格差が最も大きかったと書かれている。これは本書の中では他には全く記述されていない。思うに、「調査と分析の流れ」は、本来の論文でイントロダクションにあたる部分であり、この本の為に調整した訳ではないのだと考える。しかし、本の最後で全く新しい事実が書かれていることに驚く人もいるのではないかと思う。
 最後に、これもまた、大本の論文を入手できれば解決するのだろうけど、参考文献のリストを掲載して欲しかった。少ないだろうが、岡さんが彼女の仮説を立てる際に参考にした論文や文献はどこの国で書かれたものなのかには興味を惹かれる。論文は、英語でも書かれているのかな?

 この本がとても興味深いことの一つは、本書で著者の岡さんが何度も強調しているように、「自殺危険因子」ではなく「自殺予防因子」とはなんであろうか、ということに着目したこと。日本だけでなく、イギリスでも自殺の予防因子についての研究は聞いたことがない。

 著者の岡さんには全く及ぶはずもないが、心理学の統計調査をやったことがある僕としては、第4章、第5章がとても参考になった。最初の三つの章が、キャッチ・コピィ的な書き方であるのに対し、後半の2章は、岡さんが立てた仮説が統計分析の結果、自殺予防因子があることが確認できる数値を得られたので、この結果を踏まえて、今後の更なる研究、また今回の結果から考察されるであろう方策を提示している。この考察・分析の部分が思慮に富んでいて、僕自身の中で膠着していたある点を解きほぐしてくれた。

 本書では、これからも折に触れて考え続けて行きたいと感じる箇所がいくつもある。中でも、第5章の中の一部、「こだわりを捨てるー”幸せ”でなくても良い」は自分一人の為の快適さだけを追い求めて、他の人のことは眼中に無い現代人への警鐘のように思う。

 「結びにかえて」の中で、岡さんはこう記す。

 「この日を境に、胸に刻んだことがある。私は、自殺した人を決して責めない(P202)」。

 この部分だけを取り上げることは誤解を招く危険があることは承知している。なので、この本をまだ読んでいない方は、この本を読む際、この前後で岡さんが書かれていることを考えることは大切だと思う、とだけ。

 ロンドンに戻る飛行機の中で読了。「私はこのことを伝えたい」という明瞭な意志によって書かれた、読み易く、しかも心理的には素晴らしく重い本。

http://loveandhatelondon.blog102.fc2.com/blog-entry-1321.html

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Comment

- ハマちゃん

興味深いですね。
「予防因子」って、ありそうで無かった、逆の発想ですよね。
私も読んでみたいです。
「幸せでなくていい」というのは、「世間的に『幸せ像』とされるものに合致してなくていい」という意味だとすれば、私はすごくよく分かります。
(ボロを纏ってボロ家に住んでて、ご飯に味噌付けて食べるような生活でも心が幸せ、というのはありますから)

惨めな日もある、死にたい日もある、
そういうときにも「ポジティブで素敵な私でいなきゃ!」というような方向の「幸せ(演出)」は不要。
惨めな死にたい自分を受容して思い切り惨めになる権利ってもんがありますよ。
そういうのをひっくるめて、コミュニティなり、人との繋がりで「ダメなお前」「ダメな自分」を受け入れ合える何かがあることが、鍵ではないかなあと、ずっと考えてます。

私も、自殺した友らを責めてはなりませんね…。
2014.09.24 Wed 15:49 URL [ Edit ]

- 守屋

ハマちゃん さん

 幸せでなくてもいい、の所で岡さんが書かれていることを引用しておきます。

なるほど。この人たちの言いたいことが、ぼんやりとであるが伝わってきた。「不幸せ」という状況に陥りたくない人は多いだろうが、では「幸せ」ならよいのかというと、考えようによってはさほど結構な状況でもないのかもしれない。「幸せでも不幸せでもない」という状況にとどまっていれば、少なくとも幸せな状況から転落する不安におびえることもない。そういうことを、この人は言いたいのかもしれないと思った。(P182)

 本書の中に幾つかあるキャッチ・コピィ的な文言に飛びつく人もいるかもしれないですが、読み易いけど考えさせてくれることがたくさん有って、日々の生活の中でも有益な本だと思います。入手の機会があれば、是非。僕は個人的には、どのような統計の手法を使ったのが知りたいです。
2014.09.24 Wed 16:04 URL [ Edit ]

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